カテゴリ:短編( 1 )


貝殻 (海の話)


 春まだ浅い海の水は、とても冷たかった。
波のせいで、目の前に見えるきれいな貝殻に手が届かないのが癪で、
靴と靴下をわざわざ脱いで、足を浸してみたのだ。

 外海 は波が荒く、引きも強く、せっかく見つけた貝殻もすぐに流されてしまう。
波消 しブロックの影に貝殻が溜まっているのを見つけたが、
そこも結局は左右から複雑に波が押し寄せて、
波の合間で、せっかく拾えた貝殻を落としてしまったりする。
あまり何度もそんな事が続いたので、
つい、悔しさがこぼれた。
「何さ、意地悪」

 波の角と角がぶつかって、ダボンと大きな音が立った。
「何もしてないよ。君さ、自分の緩慢さを他のせいにしてないか」
 海があんまり不服な音を立てるので、こちらも余計に腹が立ってくる。
「緩慢なんて、失礼じゃない。あなたがこんなに冷たくなきゃ、
もうちょっとましに拾えるかもしれないでしょ」
「見たとこ、無理だね」
「やっぱり意地悪。さっきだってこっちが足を取られそうになった時に大波よこして、
服の裾を濡らしたくせに」
「そんなの、知らないよ」

 海はあくまでしらを切 りたいらしい。裾をまくって、さっさと引いて行く。
忙しい訳でもないくせに。
そのくせこちらが足許に目を凝らし始めると、
目を付けた貝殻を持って行ったり、顔に水を跳ねかけたりするのだ。
「やだあー」
 声を上げると、海はくすくす笑いながら波消しブロックの影に駆け込んで行った。


 「そろそろ、帰ろうかなあ」
 海が横目につぶやいていく。そういえば、結構時間が経っているようだった。
このままではつまらない気がして、思い切って、絡んでみる。

「帰るんなら一緒 に、どこかに連れて行ってよ」
「やだよ。第一、君、船を持っていないじゃないか」
「船なんかなくったって、力強いじゃん。人一人くらい簡単に乗っけられるくせに」
「とんでもない。そんな所までとても 面倒見られないよ。ちゃんと自分で浮いてもらわないと。
人間 は魚と違って、沈んだら死んじまうんだから」
「けち」

 海は波足を伸 ばして、足許までやって来た。
「けちで結構」
蹴飛ばして飛沫を上げると、海は愉快そうに笑った。
「ガキ」
「何億年も生きてるあんたなんかと比べないでよ」


 「ほら、ガキはこれで遊んでな」
ザッバンと波がぶつかって、大きな音がした。
波の引いた後に、赤い貝殻。きれい。

 悔しかったけど、拾い上げる。
口を少し緩めて見せると、
海はきらきらと、ちょっと得意そうに笑った。


 またね。海。
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by kobane99gi | 2015-03-25 16:39 | 短編 | Comments(0)
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世間の対岸。


by こばね
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